ヘーベシーベ窓
景色が良いから窓はとにかく大開口にしてみた。
選択肢はそんなにない
北海道というマイナス20度を下回る厳寒地にあって、大開口窓を選ぼうとすると選択肢は少ない。 旧来からの引き違い掃出し窓を2間にわたり4枚建てで設置するのは断熱の点で難しい。 縁側を断熱空間と割り切って、窓を二段構成で入れる人もいるようだが、空間が惜しい。
YKK AP には大開口スライディングという商品があり、 閉じる際に窓の縁を奥へ押し付けて気密を確保するという。 性能はとてもよいと聞く。しかし、惜しむらくは開口面積である。 固定窓部分はなくして、左右に全開放がほしい。
そこで検討したのが木製ヘーベシーベ窓。 こちらは閉じる際に滑車が収納され、窓の重量で気密を確保するというもの。 HebenShiebenというドイツ語は、リフトして、スライド、という意味らしい。 a-schiebe氏のページ が 非常によくまとまっていて参考になる。
家そのものの設計にも影響する
木造住宅で大開口を2間飛ばそうとすると、構造用合板耐力壁が使えないのでなんか怖い。 開口時に窓の納まる位置に1間幅のFIX窓を入れて4間(7メートル)窓だぜ!とドヤ顔するのも興味深いが、 鉄筋でもないのに工務店の木造でそれをやるのは強度がいよいよ不安になる。 (やってやれないことはないのだろうが、梁成がぶっとくなって重量も上がり、コストもあがるとおもう。) そこで窓の納まる位置の壁面はバッチリ筋交いも入れて頑丈な壁とした。
さらに屋内側に半間の壁を出っ張らせ、こちらにも筋交いを入れるようにした。 冒頭の写真に写っている左右の壁がそれである。この半間の壁にはCDやDVDのラックを生やすわけだ。 こんなふうに。
札幌木工製
木製ヘーベシーベは全国的にも数える位しか扱われていない。 我が家は釧路圏なので札幌木工に製造を依頼することになった。
ガラスそのものは YKKAP の2重ガラス。大きなドアハンドルをぐるっとまわすと 窓全体がノソッと上がり、滑車でトルルルルルっと動く。 建物の外に納まるので4枚建て掃出し窓よりも大開口で素晴らしい。 値段も素晴らしいのだが、まぁ仕方がない。 数が出ない窓で、巨大で、部品も輸入となれば、致し方ないだろう。 この景色に見合う窓ってことでこうなった。
入れてみた感想
物凄く良い。 この冬はマイナス26℃まで下がったが、全く問題なかった。
引渡し前に、風の強い日を狙ってチェックした時、隙間風がけっこう出てたので 直ぐに工務店に連絡したところ、札幌木工から数人が遠征してくれた。 調整後、隙間風は全くなくなった。こうでなくっちゃ!
何がよいって、やはり視界一杯に広がる牧草地とその向こうの釧路湿原。 遥かに高い雲、遠くの方にエゾシカの群れが草を食んでいる。 あっちの方にいるのは多分、キタキツネだろう。もしかしたらエゾタヌキかもしれない。 ときどき丹頂鶴が大空を行く。民家は視界に1軒もない。ザ・北海道!
窓辺に立つと、まったく視界を遮らない。 壁が何もないような錯覚を受ける。
2間4枚建て掃出し窓はサッシが大体80センチごとに見えてしまう。 APW 430 などの W1200 はよくできていてそこまで行くと窓辺に立った時にサッシが見えなくなるようだ。 だけど今回の窓は W1600H2200 である。窓辺に立つと、本当に上下左右に何も遮らない。
この状況は透明度の高い海でシュノーケリングをしている時に近い。 ある時、私は透明度が高すぎる南伊豆の海で2~3メートルの深さを立体的に任意の方向に泳いでいた。 その日は特に透明度が高く、遂に自分が海中に居ることを忘れてしまうほどであった。 もしかしたら空中に居るのではないか?呼吸できるのではないかと錯覚してしまったのである。 シュノーケルからは海水がドカッと入ってきて、ここが空中ではないと一瞬にして理解した。
この窓は良い。自分が外にいるかのような錯覚を覚える。 窓を開けると気温差に衝撃を受ける。ちゃんと機能しているわけだ。 まるでSF映画に出てくるフォースフィールドのようだ。 これぞヘーベシーベといってよいだろう。
春や秋の気持ちの良い日中は窓を全開にする。屋内外が一体となる。 空気が一気に繋がるのがわかる。つまり大自然と屋内が一体化するのだ。 大開口窓ならではといってよいだろう。 (目の前の菜園がごっちゃりしてるのは、このころは週末しか来てなかったため、手入れがずさんだから ということにしておこう。)
また、玄関の正面に正面に窓が来るようにデザインしている。 玄関入って右手は IKEA の2枚建て全面鏡のクロークなので、 ここに反射して正面の窓が広がって見えるのである。 家に入るたびにテンションが上がる。
測定の概要
詳細なレポートは後日まとめるとして、今回は概要だけ紹介。 たとえば外気温が最高でマイナス0.6℃、最低でマイナス18.2℃まで下がったある日(2024/1/10未明)、 日中の太陽が出ている時間帯のみ床下のエアコンを作動させるだけで、つまり 日没から夜明けまで薪ストーブ等の一切の暖房無しで、 温度がどう変化するか、6箇所に温度・湿度ロガーを設置したデータがある。
この日は完全に無人なので、人の生活に伴う熱もない。 それでも室温は11℃までしか下がらなかった。 主要因は基礎断熱や付加断熱の効果が大きいのだろうけれど、 窓からの冷却は覚悟したほどではなかった。さすがは木製ヘーベシーベ。
ヘーベシーベ内側下端(窓枠のすぐ上のガラスの角)に貼り付けたロガーは 外気温マイナス18.2℃の時でもプラス0.7℃までしか下がらず、 その地点での相対湿度も61.9%であり、結露は殆ど全くなかったと考えて良いと思う。 なお、屋内の相対湿度変化は 36.9%~32.1% である。
居間中央の温度は日没時点の17.2℃から、未明の11℃までしか下がらず、 日中以外にストーブをつけないでこの成績というのは衝撃的な成績である。