カンナビ 3
2000年前の日の出方位を確かめてみた。
黄道傾斜角は約4万年周期で1~2度程度ズレる
黄道傾斜角、すなわち地球の自転軸の傾きは、 他の惑星や月などの天体間の引力の影響や、 核、マントル、大気圏の摩擦などによる影響で、 約4万年周期でおよそ22度から24.5度の範囲で変動する。
様々なモデルがあるが、#f01 今回はJ.Laskar の 2004年の論文 に書かれた近似式を用いる。
近似式
結論だけ言うと次の式で近似される。
ここで各パラメータは次のとおりであり、
k | ν'k | a'k | Φ'k |
---|---|---|---|
1 | 31.626665 | 0.582412 | 86.645 |
2 | 32.713667 | 0.242559 | 120.859 |
3 | 24.124241 | 0.163685 | -35.947 |
4 | 32.170778 | 0.164787 | 104.689 |
5 | 31.081475 | 0.095382 | -112.872 |
6 | 31.493347 | 0.094379 | 60.778 |
7 | 0.135393 | 0.087136 | 39.928 |
8 | 43.428193 | 0.064348 | -15.13 |
9 | 44.865444 | 0.072451 | -155.175 |
10 | 31.756641 | 0.080146 | -70.983 |
11 | 31.36595 | 0.072919 | 10.533 |
12 | 32.839446 | 0.033666 | -31.614 |
13 | 32.5761 | 0.033722 | 77.554 |
14 | 32.0352 | 0.030677 | 71.757 |
15 | 43.537092 | 0.039351 | 145.835 |
16 | 43.307432 | 0.030375 | 160.109 |
17 | 43.650496 | 0.024733 | 144.926 |
18 | 31.903983 | 0.025201 | -173.656 |
19 | 30.945195 | 0.021615 | -144.933 |
20 | 23.986877 | 0.021565 | -79.67 |
21 | 24.257837 | 0.02127 | -178.441 |
22 | 32.312463 | 0.021851 | -24.566 |
23 | 44.693687 | 0.014725 | 124.744 |
ν'kは秒角/年、Φ'kは度であり、先の式のcosは度数法であり、 p1は -13.526564×10-9秒角/年2 と読める。
グラフ
この数式を過去5万年の範囲で描いたのが冒頭の図で、過去100万年の範囲で描いたのが次図である。
弥生時代中期後半(2000年前)の黄道傾斜角は 23.60度 と求まり、近似式において 0.26度大きい。
冬至「日の出」方向に与える影響
この黄道傾斜角の違いは日の出方向にどのような影響を与えるか、大雑把な見積もりを行ってみる。
地球を真球として、 日の出の方位の定義を太陽中心が地平面と重なるときの太陽中心の真方位とすると#f02 その方位角は 180度 - acos(sin(黄道傾斜角)/cos(観測地点の緯度)) で表されるので、 北緯30~45度における冬至の日の出方位角(北より時計回り)と黄道傾斜角の関係は次図の通りとなる。
たとえば奈良(北緯35度付近)における日の出方位は、現在の黄道傾斜角23.4度の場合 N119.00Eで、 2000年前の黄道傾斜角が0.26度大きいと仮定すると、その場合の方位角は N119.33E となり、 およそ0.33度南へずれることになる。夏至の日の出の場合は同様に、今度は逆に0.33度北へずれる。
この値は北條芳隆氏の想定する値と一致する。
唐古鍵遺跡から2000年前の冬至の日の出
唐古鍵遺跡の大型建物跡の座標(34.56947, 135.79857)から カシミール3Dのカシバード により冬至の日の出方向を計算すると次図のようになる。 カシバードでは気差の影響を等価地球半径に換算して計算しているとある。
ここで黄色の線は現代の日の出の太陽中心で、 白い円が三輪山から顔を表した瞬間の太陽で、 その山稜における位置はPである。
もし2000年前の黄道傾斜角が0.26度大きいとすれば、 日の出の位置は南へ0.33度ずれる。 この場合の三輪山から顔を表した瞬間の太陽を赤い円で描いた。 その山稜における位置はYであった。
このオーダーの議論は、誤差の範囲と見て避けるべきだろうが、 奇しくもその位置は現代の三輪山山頂から0.1度以内の精度で一致していることがわかった。 北條芳隆氏の主張はなお一層正しいように思われる。
メモ
- 黄道傾斜角の変化
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たとえば
- Berger, A. L. (1976) Astronomy and Astrophysics, vol. 51, no. 1, pp. 127-135.
- Laskar, J. ; Joutel, F. ; Boudin, F. (1993) Astronomy and Astrophysics, Vol. 270, pp. 522-533.
- J. Laskar1, P. Robutel, F. Joutel1, M. Gastineau, A. C. M. Correia and B. Levrard (2004) Astronomy and Astrophysics, vol. 428, no. 1, pp. 261-285.
など。
- 日の出の方位の定義
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実際の日の出の方位の定義はこれと異なるが、今回は偏角要素を概算する目的で単純化している。